セールスイネーブルメントとは、営業組織の売上を抜本的かつ安定的に上げるため必要な取り組みです。欧米で先に注目を集めていましたが、昨今では国内でも取り組まれるようになりつつあります。
この記事では、セールスイネーブルメントの概要や効果、実現のポイントを中心に解説します。
目次
セールスイネーブルメントの概要
セールスイネーブルメントは企業が安定して高い売上を出すために欠かせない活動となっています。
セールスイネーブルメントとは
「セールスイネーブルメント(Sales Enablement)」とは、高い売上を出す営業担当者を育成するために営業組織を強化・改善することです。優秀な人材を育てるための仕組み自体を指すだけでなく、その仕組みづくりのプロセスを含めてセールスイネーブルメントと定義されます。
具体的な手段としては、上司による部下のコーチングや指導、営業活動の平準化、営業支援ツールの導入などがあげられます。例えば「業務効率を上げるために営業マネージャーが知識・ノウハウ面でコーチングする」といったアプローチです。
セールスイネーブルメントが必要な理由
セールスイネーブルメントが求められる理由には、主に「営業活動の属人化」と「顧客情報管理の非効率化」の2点をあげられます。
これまでの営業活動では営業担当者の裁量に任せるがあまり、業務が属人化することが課題でした。その結果、営業担当者の実力によって受注率が左右されていたのです。全体の売上を高めるためには、営業活動を全体で平準化することが大切です。
また、顧客情報の管理を紙やエクセルで行い、効率的な情報共有をできていませんでした。「顧客からの問い合わせに、担当者本人しか答えられない」という非効率を招いていたのです。
このような背景の中で、欧米ですでに有名だったセールスイネーブルメントが日本国内でも注目を集めるようになっています。
セールスイネーブルメントの今後とは
セールスイネーブルメントの市場規模は年々、増加傾向にあります。株式会社アイ・ティ・アールの市場調査・予測によると、セールスイネーブルメントツールは、2017年度で前年度比6.1%増。2018年度では10.7%増を見込まれていました。また、Research and Markets社の調査では、全世界で2020年の13億米ドル(推計)から、2027年には45億米ドルまで成長すると予測されています。
国内に限らず世界規模でも、セールスイネーブルメントのツール市場は拡大を見込まれており、今後、企業における重要な取り組みとして位置づけられる可能性は高いです。
【参考】ITRがセールス・イネーブルメント・ツール市場規模推移および予測を発表|ITR
【参考】Sales Enablement Platform|Market Research.com
セールスイネーブルメントの効果とは
セールスイネーブルメントの実践は営業組織に大きなメリットをもたらします。
営業社員全体の底上げと平準化
前述の通り、営業活動の属人化が課題となっていました。セールスイネーブルメントで営業活動を仕組み化することで、全体で営業力の底上げと平準化を実現できます。例えば、トップセールスの営業トークを全体に共有し、高い受注率につなげることも可能です。また、「アポイントの獲得」から「課題のヒアリング」といった契約までの手順も、全体でマニュアル化することで生産性を高めることもできます。
つまり、セールスイネーブルメントでは「売れない営業担当者」を「売れる営業担当者」まで育成することが可能となります。
営業活動ごとの貢献度の可視化
セールスイネーブルメントに取り組む前提として、現状の営業活動を数値化することが大切です。
例として、
「テレマーケティングから獲得したアポイント数」
「営業担当者の平均的な受注率」
「成績の良い営業担当者の受注率」
などの情報を明らかにします。
現状の分析から「どの営業活動がどれくらいの成果を出すか」「再現性のある営業活動の取り組みは何か」を可視化し、対策を練ることも可能です。もしテレマーケティングから獲得したアポイント数が少なければ、営業トークを見直し、改善することで件数アップにつなげられるでしょう。
セールスイネーブルメント実現のポイント
セールスイネーブルメントは営業活動の平準化や貢献度の可視化に役立ちます。具体手にはどのような方法でセールスイネーブルメントを実現できるでしょうか。
コーチングを実施する
限られた営業リソースの中で成果を上げるには営業担当者一人ひとりの営業力の底上げが重要になります。
直属の上司または営業マネージャーによるコーチングを部下に対して行います。コーチングは対話を基本とし、部下から現状の目標や課題などをヒアリングするところから始めます。
十分にヒアリングした上で営業活動のボトルネックを把握し、各営業担当に合わせて施策毎の目標(KPI)の設定や最も成果が出やすい施策や営業活動のノウハウなどのアドバイスを行うことで、営業部門全体の数字の底上げや上司と部下とのコミュニケーションや信頼関係の向上にも役立ちます。
ツールを用いてデータ管理を行う
顧客情報の管理や、営業活動の可視化にツールを用いてデータ管理を行うことです。
顧客情報の管理では、「CRM(Customer Relationship Management)」の導入が一般的です。CRMは顧客との関係構築を目的とします。主な機能として、顧客の氏名、企業、部署部門、役職といった情報を管理することが可能です。加えて、ニーズや課題、購買意欲といった顧客の温度感を示す情報も記録します。
また「SFA(Sales Force Automation)」の導入も広まっています。SFAは商談や売上予算の管理、見積もり作成、スケジュール管理、日報管理などの機能を有すことが一般的です。SFAを活用すれば、「営業活動の各施策で、どのくらいの成果が出たか」を可視化しやすくなります。
CRMが顧客情報の全般を管理するのに対し、SFAは営業活動に特化して業務を進めるサポートを行う点で異なります。
専門部署を設置する
セールスイネーブルメントの取り組みには、営業に限らず、人事や開発などのほかの部門も関係します。営業組織の人事配置を変更したり、CRM・SFAなどのツールを導入するために開発を行ったりする必要があるためです。
注意点は、部門ごとに取り組みがバラバラになることです。うまく連携が取れなければ、営業部がSFAに求める機能を、「開発部との連携や対応する部門を設けていなかった」といった事態を招きかねません。そこで、営業部の人材を中心とするセールスイネーブルメント専門の部署を立ち上げ、全体として統一した取り組みを実施することが大切です。
営業ノウハウの平準化を進める
これまで解説した通り、トップセールスの営業ノウハウを全体で平準化する方法です。ポイントは「誰でも再現可能にする」点で、アポイント獲得までのメール、商談での営業トーク、価格交渉のコツなどをコーチングに取り入れたり、マニュアル化して共有することによって属人性の排除や誰でも一定の営業力アップにも繋がります。また、清潔感のある髪型・服装などのアピアランスや、表情といった努力次第で真似できる要素も共有したいところです。
場合によっては、トップセールスや営業マネージャーによる実技研修などのロープレを開催することも効果的でしょう。
検証と改善を繰り返す
セールスイネーブルメントは一度やって終わりではありません。セールスイネーブルメントで掲げた目標を実現できているかどうか検証し、改善を繰り返すことが重要です。
可視化した数値を元に各営業担当者毎や施策別にどのくらいの成果が上がったかを振り返りの検証を繰り返しましょう。
短期間ですぐに成果を出すことは難しく、何度も検証と改善を繰り返していく中長期的な取り組みがセールスイネーブルメントでは求められます。
セールスイネーブルメントのツール導入の活用事例
セールスイネーブルメントの実践例として、ツールを活用して成果を出した企業が存在します。
ベネフィット・ワン
法人向けの福利厚生や教育研修などのサービスを提供する「株式会社ベネフィット・ワン」は、CRMとSFAを導入して、人材育成における成果を出しました。
<課題>
- 営業活動の見える化と効率化
- 部門間の連携によるクロスセル強化
- 新事業部の早急な人材育成とマネジメント
(※クロスセルとは、既存顧客に対して関連している自社の商品・サービスを販売すること)
<取り組み>
- トップセールスのノウハウを即座に共有したことで、営業力の底上げに成功
- 営業の成功例・失敗例を日報で報告し、失注を防止
- ノウハウ共有による若手営業の即戦力化に成功
<導入効果>
- 事業部全体で、受注件数が前年比360%アップ
- 残業時間が30%減少
「受注件数が増えすぎて対応しきれないのでは」という懸念に対しても、ツールを用いた業務効率化により、むしろ残業時間を減らすことに成功しました。
Sansan
名刺管理ツールで有名な「Sansan株式会社」は、専門のセールスイネーブルメントを設置して取り組んでいます。
<課題>
- 大手企業の顧客を抱え、営業部門の強化が必要
<取り組み>
- 1ヶ月の育成プログラムを営業の新人に実施(トレーナーによる指導やロールプレイング)
- 新人へのフォロー体制を構築
- 営業プロセスを7つに分け、各プロセスでの実施事項を明確化
<導入効果>
- 人材育成のPDCA化に成功
- 営業部門の生産性向上
新人を中心とした育成やフォローの体制を整えたことで、育成方法を体系化し、また生産性の向上にもつなげられました。
セールスイネーブルメント実施の注意点
事業にプラスをもたらすセールスイネーブルメントの取り組みですが、実施時には以下の注意点があります。
解決すべき課題の散乱
セールスイネーブルメントの実施にあたって、まず現状を把握して対策を考えますが、
「新人の離職率の高さ」
「各営業担当者の業務が把握しづらい」
「KPIに落とし込まれていない営業目標」
などと課題が散見されるケースもあります。「どの課題から解決すべきか」を迷うかもしれません。
一番優先したいのは、営業担当者が最も頭を悩ませている課題です。現状の把握ができていない場合、まずは代表的な成績を上げている営業担当者や複数の担当者にヒアリングを実施して、ボトルネックとなっている営業課題を把握することが大事です。
セールスイネーブルメントは営業力の底上げや平準化を目的とするため、現場の営業担当者が認識している課題の解決を優先します。
一時的に業務量が増える恐れ
セールスイネーブルメントではツールの導入や研修・コーチングの実施、組織変更などに取り組むことになります。ただ、すべての取り組みが効果をもたらすとは限らず、検証と改善を繰り返さなければなりません。
さまざまな取り組みを同時に進めることで、一時的に業務量が増える可能性もあります。例えばSFAを導入すると、操作や入力作業に慣れるまでは余計に業務時間がかかるケースもあるでしょう。また研修やコーチングには実施するための時間を上司・部下ともに調整しなければなりません。
セールスイネーブルメントの取り組みは、専任の営業推進部署などの立ち上げや段階的に導入したり、部分的に導入することで業務負担が増えないよう注意する必要があります。
中長期的な取り組みと捉えてしっかりと計画を立てて取り組むと良いでしょう。
ツール導入によるコストの増大
CRMやSFAといったツールを導入する場合、導入コストが発生します。自社の課題に対して、どのツールが適切かを比較検討し、慎重に導入を決める必要があります。
まずは「どのような営業課題があるのか」「その課題を解決するための手段なにか」「どのような項目や目標設定が必要か」を洗い出す必要があります。解決手段によっては、「そもそもツールの導入は必要なのか」を検討してもいいでしょう。前述の通り、セールスイネーブルメントにはツールの導入以外にもさまざまなアプローチが存在します。営業組織や担当者の課題を解決するために、最適な課題解決方法を選ぶことが大切です。
まとめ
セールスイネーブルメントは「営業活動の属人化」や「顧客情報管理の非効率化」といった課題を解決するための取り組みです。コーチングや研修、ツールの導入、営業ノウハウの共有などの実施により、「売れない営業担当者」を「売れる営業担当者」に育て、営業組織の売上を底上げできます。
現状の課題を分析し、「どの課題から解決するか」の優先度を決めた上で、セールスイネーブルメントに取り組んでみてください。
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