2026/09/15

株式会社イチネン

「誰でも売れる営業組織」への布石

― イチネンが進める、ナレッジ基盤による営業変革 ―

営業担当者が、提案の直前に必要な資料を探して社内システムをさまよう。どこにあるのかわからず、更新日も定かではない――。多くの営業組織で日常的に起きているこの「探す時間」は、表には出にくいものの、積み重なれば大きな競争力の差になります。

労働人口の減少と人材の流動化が進むなか、法人営業を中核とする企業にとって、「個人の経験と勘」に依存した体制からの脱却は共通の経営課題です。ベテランの暗黙知をいかに組織の資産へと変え、誰もが同じ水準で価値を提供できる体制を築くか。ナレッジマネジメントは、いまや業務効率化の一施策ではなく、営業力そのものを左右する経営アジェンダとなっています。

オートリースやメンテナンス受託など自動車関連サービスを全国で展開する株式会社イチネンは、この課題に対し、社内に散在していた資料・マニュアルを一つの情報基盤に集約するところから変革に着手しました。目指すのは「誰でも売れる営業組織」。その設計思想と現場での実践について、変革の戦略を描く経営戦略本部 事業開発室 営業推進課の青栁さんと、情報基盤の運用と現場での活用をリードする同課の葉田さんの2名に話を聞きました。

「探す時間」という見えないコスト――課題の定量化から始まった変革

全国に拠点を持ち、多様な商材を扱う営業会社にとって、資料やマニュアルの管理は経営に直結する問題です。イチネンの変革は、現場の小さなストレスを可視化するところから始まりました。

── 情報基盤づくりのプロジェクトを立ち上げた背景には、どのような課題があったのでしょうか。

青栁さん

社内の資料やマニュアルの格納先が分散していて、使う人から見てどこに何があるのかわからない。探したいけれど時間がかかってしまう、という課題がありました。しかも、資料がいつ更新されたのかも明確でなかったので、それが最新版なのかどうかも判断しにくい。結果として、各自が個人のフォルダに資料を抱えて更新するようになり、資料の品質を担保できなくなっていました。この状況を改善するために、一箇所に集める仕組みが必要だと考えたのが出発点です。

株式会社イチネン 経営戦略本部 事業開発室 営業推進課 青栁さん

── 課題感を、どのように全社の合意へとつなげたのですか。

青栁さん

保管やアクセス性、更新については漠然と課題を感じていたものの、それがどれだけのインパクトを持つのか、定量化ができていませんでした。そこで社内アンケートを実施し、皆が資料を探すのに実際どのくらい時間をかけているのかをヒアリングして集約したんです。資料を集約するメリットを数字で明示することで、社内の承認を取り付けました。

課題を「感覚」のまま放置せず、時間という誰もが実感できるものさしで測り直す。この定量化のプロセスこそが、投資判断を伴う全社的な取り組みへと押し上げた転換点でした。

「資料を探す時間を定量化し、メリットを数字で示すことで、社内の承認を取り付けました。」

「誰でも売れる営業組織」へ――情報基盤という設計思想

イチネンが情報基盤の構築に踏み切った背景には、明確な組織戦略があります。属人性からの脱却です。

── 情報共有が進んだ先に、どのような組織の姿を描いていますか。

青栁さん

当社は営業会社です。より多くのお客様に採用いただき、お役に立つことで業績を上げ、社員とその家族の幸福を実現する。それが目的です。そのためには、属人性に依拠した営業組織ではなく、「誰でも売れる営業組織」の実現が欠かせません。必要な要素は数多くありますが、大きくは二つ。営業の武器をつくることと、案件を供給することです。情報基盤が寄与するのは前者で、研修・マニュアル・提案資料・営業ナレッジが集約された環境を整え、必要な情報にオンデマンドでストレスなくアクセスできるようにする。それが、誰もがスムーズに提案できる状態につながります。

── 情報を集約するだけにとどまらない役割も期待されているそうですね。

青栁さん

社内広報としての活用です。従来は発信する側が一方的に送るだけで、見てもらえているかもわからない状況でした。いまはコメントやリアクションが返ってくるので、双方向のコミュニケーションが生まれています。単なる情報の箱ではなく、発信した人にも、取り上げられた社員にも反応が届く。エンゲージメントの向上にもつながる場所にしたいと考えています。

この構想の実行基盤として同社が選んだのが、AIナレッジマネジメント「Open BRAIN」です。研修資料からマニュアル、提案資料、社内報まで、性質の異なる情報を一つのプラットフォームに集約する運用が始まっています。

「属人性に依拠した営業組織ではなく、「誰でも売れる営業組織」を実現したい。」

未経験でも、動画とAIで――内製で広がるコンテンツ

戦略を実際に機能させるのは現場です。運用を担う葉田さんは、マニュアル整備にとどまらず、コンテンツづくりの領域を着実に広げています。

株式会社イチネン 経営戦略本部 事業開発室 営業推進課 葉田さん

── どのようなコンテンツを、どんな工夫で制作していますか。

葉田さん

たとえば新入社員の紹介コンテンツでは、動画を見た社員が本人に「話しかけるきっかけ」をつくれるように意識しています。趣味や出身地といった人となりが伝わる情報を盛り込んだり、証明写真のような硬い表情ではなく、その人らしい自然な表情の写真を使ったり。親しみやすさを感じてもらえるよう工夫しています。

── 制作にかかる時間や工数は、どう変わりましたか。

葉田さん

ゼロから動画をつくるとなると、膨大な時間と専門スキルが必要です。それが、Video BRAINの豊富なテンプレートのおかげで、未経験の私でも素材を当てはめるだけでスピーディーに制作できています。記事制作でも、AIで作成する機能を使えば、ExcelやWord、PowerPointを添付するだけで構成の整ったたたき台が一瞬ででき上がる。これまでは「何から書き始めよう」と悩む時間が長かったのですが、いまはAIのつくったベースを微修正するだけで済むので、執筆時間を大きく短縮できています。

── 機能面で、印象に残っているものはありますか。

葉田さん

目次や表の機能を初めて試したとき、青栁と一緒に感動したのを覚えています。目次の項目をクリックするだけで読みたい場所へ瞬時に飛べるのは、本当に便利です。情報量が多くなりがちなマニュアル記事でも、全体の構成を視覚的に把握できて、格段に読みやすくなりました。表機能はマニュアルの改訂履歴の整理に使っていて、いつ誰が何を更新したのかが一目でわかる。マニュアルの信頼性や管理のしやすさも高まりました。

「未経験の私でも、素材を当てはめるだけでスピーディーに制作できています。」

情報が「届く」組織へ――伝達スピードと高め合う文化

情報基盤の整備は、組織の動き方そのものに変化をもたらし始めています。

── 導入から現在まで、組織にはどのような変化がありましたか。

青栁さん

情報伝達のスピードは確実に速くなりました。所在が明確になったことで、メールでリンクを共有することも、口頭で格納場所を的確に伝えることもできます。浸透度の面でも、更新時のメール通知に加えて、誰が見て誰が見ていないかを確認できる。見てほしい人が見ていなければ、こちらからピンポイントで働きかけられます。情報を「発信した」で終わらせず、「届いた」ところまで確認できるようになりました。

── 社内からの反応で、印象に残っているものはありますか。

葉田さん

提案資料ポータルの「営業ナレッジ」が、特に良い反応をいただきました。営業経験の少ない社員でも成功パターンを早く習得でき、全国どの拠点でも同じ水準の提案ができるように、という狙いで記事を作成したんです。掲載後、営業拠点から「次は自分たちの成功事例を載せてもらえるように頑張る」という、とても前向きな声が返ってきました。情報を提供するだけでなく、全国の拠点のモチベーションを高め、お互いに高め合う文化を生むきっかけになったと感じています。

── 経営戦略本部として、投資対効果をどう評価していますか。

青栁さん

コスト削減効果を定量的に測るのは難しいので、評価は定性的なものになりますが、投資対効果は十分にあると考えています。まだ当社側の整備が追いついておらず、効果を出し切れているわけではありません。それでも、利便性の向上にとどまらず、基礎的な研修をシステム内で完結できるようにすれば、教育にかかるコストの削減にも寄与できるはずです。ポータルサイトは自社開発という選択肢もありますが、開発費も維持費もかかりますし、当社には社内に開発者がいないため、変更のたびに改修コストが発生します。その点、パッケージとして手早く導入でき、環境構築も非常にスムーズでした。求める機能改修にも対応いただけているので、長期的な目線で回収できると考えています。

「情報を「発信した」で終わらせず、「届いた」ところまで確認できるようになりました。」

今後の展望――ビジネスを下支えする情報基盤として

── 今後は、どのように活用を広げていきたいとお考えですか。

青栁さん

Open BRAINは提案資料だけでなく、マニュアルや研修、社内広報まで、多様な情報の格納場所として活用しています。社内外における重要な情報基盤として、当社のビジネスを下支えするツールにしていきたい。一方、Video BRAINはまだ活用が限定的です。動画はよりリッチな情報を届けられるメディアなので、活用の幅を広げて、訴求力の高い資料を効率的に増やしていきたいですね。

── 最後に、同じ課題を抱える企業へメッセージをお願いします。

青栁さん

資料まわりの不便さは、現場が感じていても声に出していないケースが多いのではないかと思います。実際にヒアリングしてみると、資料探しや問い合わせに時間を取られていたり、同じ人に何度も聞くことへの心理的なハードルがあったり。一つひとつは小さくても、毎日のことなので積み重なり、大きな不満につながりかねません。そうした声を顕在化させて社内の課題として解決することが、働きやすい環境の提供、ひいては業績の向上にもつながるはずです。ぜひ一度、自社の環境について現場の声を聞いてみてください。

「一つひとつは小さなストレスでも、その積み重ねは大きな不満につながりかねません。」

株式会社イチネン

本社 大阪府大阪市淀川区西中島4-10-6
設立 2002年2月1日
売上高 503億65百万円(2026年3月期)
従業員数 314名
事業内容 自動車リース関連事業(オートリース、自動車メンテナンス受託、燃料販売、車両販売等)
グループ 株式会社イチネンホールディングス(東証プライム上場)グループ

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