リテンションとは?人材の流動性が高くても、採用や定着につなげる方法

人材の流動性が高まっている現在、採用活動の強化とともに優秀な従業員を定着させる「リテンション」が必要です。以前よりも転職希望者が増え、良い人材を確保しやすくなった一方、優秀な人材の流出に悩まされる人事担当者も多いのではないでしょうか。

人材の流動性が高まると、
「早期退職率が高い」
「競合他社に雇用条件で負けてしまう」
「自社にノウハウが蓄積されない」

など、さまざまな課題が生じやすいのが現状です。

また、現在は人的資本に関する情報開示の義務化が進んでおり、自社の流動性にまつわる項目を開示する必要が出てきています。自社の現状を把握しつつ、求職者や従業員から「この企業で働きたい」と思ってもらえるように、リテンション強化が肝心です。

本記事では、人材の流動性が高い中でも採用や従業員の定着につなげる方法を解説します。

人材の流動性とは

人材の流動性とは、ひとりの人材が1つの企業で働き続けるのではなく、企業間を行き来することによって雇用が活性化する状態のこと。

そもそも流動性とは、固定せずに流れ動く性質を表す言葉です。そのため、たとえば金融市場の場合、株式や債券などの金融商品の現金化のしやすさ、取引のしやすさを指します。人事の場合、大量の人材が企業間を行き来した状態を表します。

以前は新卒一括採用が基本であり、転職に対しては消極的な傾向にありました。しかし、昨今は終身雇用などの概念が薄まりつつあります。転職志向の労働者も増え、人材の流動性が高まるようになりました。

人材の流動化によるメリット

人材の流動性が高まると、以下のようなメリットが生じます。

・即戦力を採用しやすい
・人材育成にかかるコストを削減できる
・新しいスキルを獲得できる
・短期間で効率的に人材を確保できる

中途採用では、すでにスキルを持った人材を確保できます。そのため、即戦力となる人材を採用でき、育成などにかかるコスト削減も期待されます。

人材の流動化によるデメリット

人材の流動化は良い影響もある一方、デメリットもあります。

・優秀な人材が退職する可能性も高まる
・採用した人材が自社のカルチャーとマッチしない場合も
・大量採用は難しい

転職市場が活発になることは、自社の従業員が退職する可能性も高まるともいえます。優秀な人材が他社に転職してしまうと、新たな社員を採用するコストが増加します。

つまり、良い人材を採用しながら、自社の従業員をとどめる施策を打つことが重要です。

リテンションとは

「リテンション」とは、保有や維持などを意味する言葉です。人事分野では、優秀な人材の確保や定着を意味し、そのために行う施策を指すケースもあります。つまり、自社から人材を流出させないための防止策を「リテンション」と呼ぶと言い換えられます。

リテンションに失敗すると、新卒や求職者から敬遠される可能性が高まり、採用活動もスムーズにいかなくなる危険性も。優秀な人材を採用する意味でも、リテンションは不可欠です。

人材が定着しない原因

従業員が退職する際、企業側に正しい退職理由を伝えるとは限りません。

求人サイト『エン転職』の調査によると、4割以上の社員が「本当の退職理由を企業に伝えなかった」と回答しています。その背景には「円満退社したかったから」(43%)、「話しても理解してもらえないと思ったから」(36%)といった理由があるようです。

つまり、退職者から直接理由を聞いても、自社の課題を見つけることは難しいでしょう。

参照:『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)「本当の退職理由」実態調査

従業員が退職する本当の理由

従業員が退職する本当の理由として、主に以下の原因が挙げられます。

・給与に満足していない
・職場の人間関係が悪い
・仕事内容が合わない
・会社に対して将来性を感じない

退職理由は人によってさまざまですが、ネガティブな理由から転職を決断する場合も少なくありません。自社に魅力を感じてもらうために、雇用条件や社内の環境を改善するのも一つです。

リテンションとして有効な施策の種類

では、実際にどのような施策が有効なのでしょうか。人材の流出を防ぎ、自社の人材を定着させる施策として「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」の2つがあります。

金銭的報酬

・給与やボーナスの増額
・各種手当の支給
・成果に対するインセンティブ、ストックオプション付与など

金銭的報酬とは、直接的で目に見えるものを指します。報酬の設定額を高くすることにより、さらに効果を生みやすくなります。

ただし、効果が持続しなかったり、他社がより高い報酬を提示してきたりする場合、限界があります。そのため、次で紹介する「非金銭的報酬」とあわせて実施するようにしましょう。

非金銭的報酬

・職場環境の改善
勤務形態の柔軟さ(フレックス制の導入、リモートワークの推進など)
スキルやキャリア向上の支援

非金銭的報酬は、「この企業で働きたい」という従業員の意欲を引き出すためのものです。「リテンション」において最も重要なのは、非金銭的報酬だといわれています。

直接的な報酬以外にも、従業員が企業や仕事を選ぶ際に重要視するポイントはさまざまです。仕事のやりがいやスキルの獲得を求める人もいれば、ワークライフバランスが実現されている就業環境を好む人もいるでしょう。

自社の従業員が求めている環境や条件を把握し、ニーズに合った非金銭的報酬を与えられるように整備することが肝心です。

現在、流動性に関する情報開示が求められている

リテンション強化は、企業が人的資本経営を推進するためにも重要です。

現在、企業の人的資本経営を求める動きが進んでおり、新たに法令の改定などが行われています。2023年3月決算より、対象企業は人的資本に関する情報を開示するように義務化されました。

その中で、採用にかかるコストをはじめ、従業員を定着させるための取り組みなど、流動性に関する自社の情報開示が求められています。

人的資本経営とは

「人的資本」とは、人材が持つ知識や技能、資質などを「資本」として捉えた用語です。一方、「人的資本経営」とは、人的資本の価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値の向上につなげる経営手法を指します。

従来の経営では、人材を「コスト」や「資源」として捉えることも少なくありませんでした。対して、人材を投資対象の資本として捉えることが人的資本経営の考え方です。

たとえば、新たに人材を雇用すると、採用コストが発生します。単純にコストとして考えた場合、企業にとっては「出ていくお金」となるので、マイナスの意味合いになります。しかし、新たに人材を雇用すると、人材によって売上が上がったり、新規事業が生まれたりなど、先々のリターンが期待できます。つまり、採用にかかった費用をコストとは言い切れません。

建物や設備といった物的資本の場合、働きやすいオフィスに建て替えたり、最新の設備を取り入れたりするなど、先々の投資として資金を投じるものです。同じように、人的資本にも必要経費として投資するべきです。

人的資本に投資した例)​
・従業員が働きやすい環境を整える
・従業員の育成体制を作る
・新たに優秀な人材を採用する​

また現在では、投資家やステークホルダーから「人的資本にどれだけ投資している企業なのか」という点も見られています。投資家やステークホルダーは、企業の将来性を判断する材料がほしいものです。自社の人材に対してきちんと投資を行っていたら、「持続性が高い企業」とみなされ、企業価値が高いと判断される可能性が高まります。

その結果、企業側に対して、人的資本の情報開示を求める動きが強まっています。そして、2023年3月決算より、人的資本の情報開示が義務づけられました。


<対象企業>

金融商品取引法第24条の「有価証券を発行している企業」が対象となり、大手企業を中心に4,000社ほどが該当します。

<情報開示の義務化が開始される時期>

2023年3月より開始します。対象に該当した企業は、事業年度終了後3カ月以内に、有価証券報告書を毎年提出しなければなりません。

<記載すべき情報>

対象企業は、有価証券報告書の「従業員の状況」「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を記載する義務が生じます。


現状では、必ずしも流動性に関する情報を必ず記載しなければいけないわけではありません。しかし、内閣官房が公表した「人的資本可視化指針」では、「情報開示が望ましい内容」として「流動性」が挙げられています。義務の有無に問わず、社外から公開してほしい情報であることは間違いありません。

また今後、義務化される開示情報の範囲が拡大する可能性もあります。自社の情報を整理し、開示できるように進めることをおすすめします。

人的資本の情報開示において、開示が望ましい内容

内閣官房が公表した「人的資本可視化指針」とは、人的資本に関する情報開示の在り方について、現在の基準やガイドラインを含めた手引きとなっています。その中で開示が望ましい項目として挙げられたのは、「流動性」を含め、以下の7分野に分類できます。

<情報開示が推奨される7分野>
・育成
・エンゲージメント
・流動性
・ダイバーシティ
・健康、安全
・労働慣行
・コンプライアンス、倫理

流動性の分野における開示情報一例

では、具体的にどのような情報を開示すれば良いのでしょうか。流動性の開示内容は、以下の3つに分けられています。

<流動性の内訳>
・採用
・維持
・サクセッション(後継者育成)

新たな人材の採用とともに、優秀な人材が退職しないように維持させること、さらに経営における重要ポジションを担う後継者を確保することが大切となります。

<流動性に関連する開示事項例>
「採用」「維持」「サクセッション」の3つの中で、さらに具体的な開示例として、以下が挙げられています。

・離職率
・定着率
・新規雇用の総数・比率
・離職の総数
・採用・離職コスト
・人材確保・定着の取り組みの説明
・移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
・後継者有効率
・後継者カバー率
・後継者準備率
・求人ポジションの採用充足に必要な期間

参照:人的資本可視化指針

これらの情報を集約し、開示できるようにしましょう。さらに、社外から「好材料」として捉えてもらえるように、「離職率を下げる対策」「目標とする離職率」などもあわせて記すのがベターです。

流動性の情報開示を行った企業事例

では、流動性に重点を置いた中長期計画を開示している企業事例を紹介します。

DIC株式会社

化学メーカーのDIC株式会社では、2022年2月に長期経営計画「Vision 2030」を発表し、その中で「人的資本経営の強化」を掲げています。「Vision 2030」では「人材育成」「エンゲージメント向上・組織力強化」、そして「人材流動性(採用・維持・サクセッション)」を重点施策としました。

参考:長期経営計画「DIC Vision 2030」説明会 動画配信

<人材流動性を高めるために行う施策>
・異業種出身人材、デジタル人材の積極的獲得
・スペシャリスト/ジェネラリスト最適バランス、サクセッション実現

流動性が高いことによるメリットは、専門的なスキルを持った人材を採用しやすい点です。同社では、主力のインキ製品に依存しない事業ポートフォリオの確立を目指しています。新規事業開発を進める上で、異業種出身の人材やデジタル人材の採用は重要になってくるでしょう。

経営計画をふまえ、流動性にまつわる情報を開示すると、一貫性のある発信となり、ポジティブに捉えてもらいやすくなります。

参照:経済産業省および金融庁をオブザーバーとする「人的資本経営コンソーシアム」に入会

リテンション施策とあわせて、情報周知に努めることが肝心

リテンション強化のために、職場環境の改善やキャリア支援のプログラムなどを実施しても、従業員が活用できていなければ、離職率や定着率は改善されません。従業員が定着しない場合、情報開示を行った際に「成長する可能性が高い企業」と社外から見てもらえない可能性が高まります。

人的資本の情報開示を行ったとき、ポジティブに映る数値を出せるよう、まずは自社の取り組みを従業員に知ってもらえるよう働きかけましょう。

従業員に情報を周知させるには、動画が有効

従業員に向けて情報発信するには、チャットやグループウェアに投稿する方法もありますが、見落とされたり、情報が流れていってしまうケースも少なくありません。そこでおすすめなのが、動画を活用した情報共有です。

福利厚生や各種手当てのお知らせをはじめ、スキルアップの研修内容など、「どんな制度があるのか」「どんな取り組みを行っているのか」を動画にまとめると良いでしょう。

<動画で共有するメリット>
・短時間で多くの情報を伝えられるため、従業員の理解を深められる​
・視聴した後にも、記憶に残りやすい​
・動画から情報収集する人が増えているため、内容をチェックしてもらいやすい​

同時に、配信した動画の分析も行うことで、​自社の課題やニーズをつかめます。配信後は、「どんな情報に関心を持たれているのか」「そもそも配信したコンテンツを見てもらえているのか」などを必ず洗い出しましょう。自社の現状を知ることで、最適な施策がわかるようになります。​

効果的に動画を活用するなら「Video BRAIN」

人材の定着につなげる動画施策を行うなら、ビジネス動画編集クラウドの「Video BRAIN」がおすすめです。

Video BRAINは、誰でも簡単に動画が制作できるツールです。動画制作から配信、コンテンツの管理、従業員の閲覧状況やToDoの進捗管理まで、一貫して行えます。


<Video BRAINの特長>
(1)パワポ感覚の操作性。短時間で簡単に動画を制作
3,500以上の動画テンプレートに加え、商用フリー素材を多数搭載。画像や動画、イラストなど、テキストや素材を入れ込むだけで動画が完成します。

(2)社内のナレッジを一元管理。必要な情報にもスムーズにアクセス可能
Video BRAINに搭載されたポータル機能を使えば、社内のナレッジを一カ所に集約可能。優れた検索機能により、必要な情報にアクセスするのもスムーズです。

3)豊富な共有方法を搭載。視聴分析で社内の活用状況を可視化
作成した内容を共有する際には、URLリンクを発行できるほか、学習期限を設定してタスク化することも可能。目的に応じて最適な共有方法を選択できるので、社内に情報を伝達したい場面から、研修教材を配信したい場面でも役立ちます。


Video BRAINなら、eラーニングの動画教材として育成プログラムの配信も可能です。さまざまな知識やスキルを身につけられる動画教材を作れれば、自身の成長を求めて転職する人材を防止する効果が期待できます。

Video BRAINを活用し、従業員が働く上で必要な知識や求めているプログラムなどを共有する体制を作りましょう。

まとめ

人材の流動性が高まる現在、自社にマッチした人材を確保しながら、優秀な従業員には定着して働いてもらえるような工夫が必要です。

まずは自社の離職率や定着率を計算し、どのような対策が有効なのか検討しましょう。その上で、リテンション強化に努めることが肝心です。


 

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