売り手市場の続く新卒採用において、内定辞退の問題に悩む企業は非常に多くなっています。しかし、内定辞退の理由を知り対策を打てば、内定辞退率を下げることが可能です。
この記事では、採用市場の現状と内定辞退の具体的な原因と防止する施策に加え、成功事例も解説いたします。
どのように対策すればよいか体系的に理解できますので、「内定辞退率を下げて採用活動を成功に導きたい」とお考えの採用担当者は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
新卒採用市場の現状
新卒採用を成功させるには、まずは採用市場の把握が大切です。新卒市場の内定率・内定辞退率の動向と合わせて、中途採用市場の状況も合わせて確認しておくとよいでしょう。
現在はいわゆる売り手市場
新卒採用市場は、ここ数年売り手市場が続いています。
リクルートの実施した大卒求人倍率調査によれば、2023年卒業予定の大学・大学院卒の求人倍率は1.58倍でした。前年より0.08ポイント増加しており、コロナ禍で大幅にポイントを下げた2020年から徐々に回復傾向となっています。
求人数に対する人材不足、また若年層の減少により労働人口が減ることから、優秀な学生には企業からオファーが集まり各社間で取り合っているといった状況です。学生側から見れば、複数オファーから興味のある企業を選べる状況にあるため、企業に魅力を感じられなければ応募が集まらないことも考えらえます。
参照:https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20220426_hr_01.pdf
学生の内定率は?
学生の内定率を見ると、2023年卒業予定の学生では春先より高水準で推移しています。株式会社リクルートが実施した「就職プロセス調査」のデータを見ると、年々内定の前倒しが進んでいるのは明白です。
【就職内定率の月別推移】
2月1日時点 | 3月1日時点 | 4月1日時点 | 5月1日時点 | 6月1日時点 | 7月1日時点 | |
2023年卒 | 13.5% | 22.6% | 38.1% | 58.4% | 73.1% | 83.3% |
2022年卒 | 9.9% | 17.6% | 28.1% | 51.3% | 68.5% | 80.5% |
2021年卒 | 9.0% | 15.8% | 31.3% | 45.7% | 56.9% | 73.2% |
2022卒と2023卒の同月差 | 3.6 | 5.0 | 10.0 | 7.1 | 7.7 | 2.8 |
2021卒と2022卒の同月差 | 0.9 | 1.8 | -3.2 | 5.6 | 11.6 | 7.3 |
7月1日時点のデータをピックアップしてみると、2021年卒と2022年卒では7.3ポイントアップ、2022年卒と2023年卒では2.8ポイントアップと、年々内定率がアップしています。囲い込みのため企業からの内定が早めに出ていることと、早いうちに進路を決めたいと考える学生は年々増えているのがデータから読み取れます。
参照:https://shushokumirai.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2022/07/naitei_23s-20220708.pdf
新卒における内定辞退率も増加
内定率の増加と同様に、内定辞退率も増加傾向にあります。
【就職内定辞退率の月別推移】
2月1日時点 | 3月1日時点 | 4月1日時点 | 5月1日時点 | 6月1日時点 | 7月1日時点 | |
2023年卒 | 20.7% | 18.6% | 28.9% | 39.3% | 51.1% | 57.8% |
2022年卒 | 14.6% | 16.7% | 21.7% | 36.2% | 48.4% | 55.0% |
2021年卒 | データなし | 18.6% | 16.6% | 27.7% | 35.2% | 46.5% |
2022卒と2023卒の同月差 | 6.1 | 1.9 | 7.2 | 3.1 | 2.7 | 2.8 |
2021卒と2022卒の同月差 | -1.9 | 5.1 | 8.5 | 13.2 | 8.5 |
こちらも2022年7月1日時点のデータでは、2021年卒と2022年卒では8.5ポイントアップ、2022年卒と2023年卒では2.8ポイントアップと、内定率とほぼ同様の推移となっています。早い時期に内定を取得しても、何らかの理由で内定辞退につながっていることが考えられるため、内定辞退の防止対策を早めに取るのが大切です。
参照:https://shushokumirai.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2022/07/naitei_23s-20220708.pdf
中途採用の内定辞退率は年々下がっている
中途採用に関する状況を見てみると、内定辞退率は年々減少傾向です。株式会社マイナビが2021年に実施した中途採用に関する調査では、次のように推移しています。
内定辞退率 | 前年比 | |
2021年全体 | 11.0% | -4.7 |
2020年全体 | 15.7% | -6.4 |
2019年全体 | 22.1% |
2019年と比較すると11ポイント以上減少しており、中途採用に関しては内定辞退の問題は改善しているといえるでしょう。しかしながら内定辞退が完全になくなったわけではないため、中途採用でも内定辞退防止の対策を講じる必要があります。
参照:https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2022/04/tyutosaiyoujyoukyoutyousa2022-2.pdf
学生はなぜ内定を辞退するのか
求職者が内定辞退を申し出る代表的な理由は、次の通りです。
・より志望順位の高い企業の内定が出たため
・待遇・雇用条件が異なったため
・企業イメージが違ったため
・採用担当者の対応に不信感を持ったため
企業側の立場になると、求職者側の目線を忘れがちになります。「自分が求職者だったときはどう感じていたのか」という視点を持てば、内定辞退防止の対策を具体的に立てられるでしょう。
より志望順位の高い企業の内定が出たため
内定辞退の理由として上位にあげられるのが、「他に志望する企業の内定取得」です。
内定取得後でも就職活動を続ける学生は多く、より自身の志望度が高い企業から内定が出た場合に辞退されるケースは大いに考えられます。とくに同業他社の内定を理由に内定辞退されるというのは、他社に優秀な人材が流れてしまうのと同意です。
自社への志望度を高めてもらえるよう、「自社の魅力や競合他社との差別化のアピール」「印象に残る内定出し」「内定後の積極的なフォロー」など、選考中から他社へ流れないような施策を打つことが重要となります。
待遇・雇用条件が異なったため
待遇や雇用条件が自分の思っていたのと違うというのも、内定辞退の理由としてよくあげられます。
「内定後に再考したら雇用条件と自分は合わないと感じた」といった理由であれば、ある程度致し方ない部分もあるでしょう。問題となるのは、募集要項と面接の内容が異なっていたり、希望職種での採用ではなかったりといった場合です。
「正しい情報公開ができているか」「求人情報に抜け漏れはないか」「採用担当者との情報共有ができているか」など、選考前の段階でチェックしておくと内定辞退を防止できます。
求職者側から見て「話が違う」とならないよう、真摯に対応することが企業側には求められます。
企業イメージと違ったため
当初抱いていた企業イメージとの乖離がでるのも、内定辞退の原因の一つです。就職活動を進めていく中で、業務内容・待遇・勤務地など、就職活動前に抱いていた企業へのイメージと変わってしまうことは十分考えられます。
求職者の心変わりという点では、どうしても避けられない面があるのは否めません。しかしながら自社のPR不足・認知されている企業イメージのリサーチ不足なども考えられるため、今後を見据えて対策を検討することも重要となります。
採用担当者の対応に不信感を持ったため
面接官や人事担当者など採用担当社員の対応に不信感を持つと、内定辞退に直接つながります。
採用担当者は、求職者から見れば企業の顔です。その社員の対応によくない印象があれば、その企業へ就職してうまくやっていくイメージがわかずに内定辞退というのは理解できます。
採用担当者の問題による内定辞退を防ぐには、「求職者へ誠意ある対応」「内定後のフォロー方法」といった、採用にかかわる社員への社員教育も大切な要因となるでしょう。
内定辞退を防止する方法7つ
先述した内定辞退の理由を踏まえ、内定辞退を防止するための方法を7つ紹介します。中途採用者の内定辞退防止にも応用できます。どれか一つだけピックアップして施策を打つのではなく、自社に合った方法を組み合わせて実施するのが重要です。
また、個々の求職者・内定者に合わせて臨機応変な対策も必要となるでしょう。
面接や説明会で自社のビジョンや魅力をアピールする
内定辞退を防ぐためには、自社への理解を深めてもらうのが大切です。面接や説明会で自社への志望度を高めてもらうには、自社の魅力をさまざまな方法でアピールする施策を取ると効果的でしょう。
・説明会時に交流会や質問タイムなど、気軽に話してもらうイベントを組み込む
・実際に働く社員に登壇してもらい、自社で働く魅力を伝えてもらう
・社内見学を実施し、会社内部を見てもらう
・説明会時に会社案内動画を使用し、求職者へわかりやすく理念やビジョンを伝える
動画を利用すると、事業紹介や自社のコンセプト、社員インタビューや社内紹介など、さまざまな方法でのアプローチが可能です。
一度作っておけばオンライン・オフラインなどさまざまな利用法ができるため、コスト面でも有利となります。
真摯に対応する
採用担当社員の求職者に対する対応の優劣は、内定辞退に直結する可能性があります。求職者の疑問や不安に対してレスポンスがなければ、企業への不信感にもつながります。
採用担当社員には、求職者からの問い合わせには早急な対応を心掛けるなど、真摯な対応が求められるでしょう。
・メールや電話など求職者とのやり取りは、抜け漏れのないようにしてすぐ返答する
・SMS(ショートメッセージサービス)・LINEなどを活用し、迅速なコミュニケーションを図る
印象に残るような内定出しを行う
印象に残るような内定の連絡は、求職者へ「ぜひ弊社へ来てほしい」という強いアピールとなります。求職者に企業から歓迎ムードを示すことで、内定辞退を防ぐ効果が期待できます。
「内定通知は書類送付のみ」といった通常の対応にプラスアルファがあれば、内定者に「自分は会社に必要とされている」と好印象を与えられるでしょう。
- 内定時に「内定の理由と貢献してもらいたい業務」などを具体的に伝える
- 社長自ら求職者への内定を出す
- 業務で必要となるものを内定時にプレゼントする
内定後も定期的に連絡を取る
求職者に内定を出したあと「入社まで何もせずそのまま」という企業は、意外と多く見られます。内定から入社まで期間が開いてしまうと試験時の印象が徐々に薄れてしまい、入社意欲の低下が懸念されることも否めません。
接触頻度が多ければ多いほど、相手に対して親しみや好意が増えるという心理学的な効果(単純接触効果)も見込めます。内定辞退を防ぐには、内定承諾後も積極的に連絡を取る(できれば月1回くらいが理想)ようにするのが非常に重要です。
・人事担当から定期的に連絡を入れる
・インターンや期間限定アルバイトなど、会社とかかわる時間を増やす
・入社までの課題を出し、進捗確認の連絡をする
内定者同士で交流できるようにする
入社前に内定者同士で交流できる仕組みがあれば、内定辞退の防止に大きな効果があります。実際に同じ職場で働く同期と事前にコミュニケーションを取れれば、入社への不安解消にもつなげられます。
内定者同士のつながりを深めると、入社へのモチベーション維持にも有効となるでしょう。
- 内定式とは別に内定者の親睦会を開催する
- 内定者限定の研修を入社前に実施する
- グループウェアを活用し、内定者のコミュニティを作る
内定者も参加できる社内イベントを企画する
自社と内定者の心理的距離を近づけるため、イベントを企画して参加してもらうのもよいでしょう。内定者を会社として歓迎しているという雰囲気があり、かつメリットを感じてもらえるイベントであるのが重要です。
・内定者と社員合同の懇親会を開催する
・経営陣と気軽に交流できるイベントを企画する
・先輩社員との個人面談など、相談できる場を設ける
・入社前研修で社内の雰囲気を知ってもらう
内定者の家族に対してもフォローする
内定者は入社を希望していても、家族から反対されるというケースも見られます。
内定者の家族に対してもフォローを入れ、企業や業界への先入観の払拭や、自社に対する理解度を高めてもらえるようにしましょう。自社を正しく理解してもらうことにつなげられれば、家族が原因での内定辞退を防止できます。
- 家族に対してパンフレットや社内報を送付する
- 会社を開放する日を作り、内定者の家族を招待して見てもらう
内定辞退の防止策を行う各社の事例
実際に内定辞退の防止に成功した企業事例を、ここでは3社紹介します。具体的な事例を参考に、自社でも活かせそうな部分を取り入れてみてはいかがでしょうか。
株式会社マネーフォワード
株式会社マネーフォワードでは、内定辞退防止の施策として「長期インターン」を実施しています。
上場による認知度の広がりにより、FinTechやSaaSなど伸びている業界だからとりあえずエントリーする、といった学生が急増しました。そういった学生は、内定を出しても「マネーフォワードで働くイメージが持てない」という理由で内定辞退をされることが多かったそうです。
そういった認識のミスマッチを防ぐ目的もあり、一緒に働きたいと考える学生向けに「長期インターン」で働いてもらう施策を開始しました。長期インターンから採用へつなげることで、自社のカルチャーを理解してもらえている相性のよい学生を確保でき、内定辞退の減少へとつなげられています。
株式会社パソナ
株式会社パソナでは、内定者向けのオンライン(eラーニング)でのプログラミング研修を導入しています。
内定者が各自でスケジューリングし、入社前に個別で受講を進めています。特徴的なのは、エンジニア職だけではなく総合職採用でも受講している点です。
内定者向けに実施された背景として、研修を通じて問題解決の習慣を身につけられる狙いがあったそうです。課題に詰まった際に自己解決する習慣が無意識に植え付けられる、またプログラミングを学ぶことで、内定者のITリテラシーも強化できるメリットもあります。
内定から入社まで真剣に課題に取り組むことで内定者のモチベーションが保たれ、内定辞退を防止できる効果が出ている事例といえるでしょう。
国際自動車株式会社
タクシー業界の国際自動車株式会社では、内定者の家族向けの「オープンカンパニー」が開催されています。オープンカンパニーとは、会社を知ってもらうために家族に営業所の見学をしてもらう取り組みです。
「新卒でタクシードライバーになる」ことにおいて、内定者よりも家族が抵抗感を示すケースが非常に多い業界でもあります。内定者の家族に実際の職場を見てもらうことにより、働くことへの抵抗感と悪いイメージの払しょくに効果を見せています。
オープンカンパニーの開催は毎月1回、毎回10組程度の参加がある中で内定辞退者は年間2、3名程度と少数です。中途採用者にも同様の施策を実施しており、内定辞退において非常に高い成果を上げています。
もし内定を辞退したいと言われたら?
さまざまな施策を打っても、内定辞退者が出てしまうことはあります。ここで大切なのは、慌てないで落ち着いた対応を心掛けることです。うまく対応できれば内定辞退を取りやめてもらえる可能性もあるため、慎重に対処しましょう。
理由をヒアリングする
内定辞退を希望する方に対してまずはヒアリングをし、その内容からどのように対応すればよいか方法を検討します。ヒアリングの内容については、次にあげる3つが基本となります。
・内定を決めた企業名
内定辞退の理由を聞く際は、最初にどの企業に決めたか単刀直入に聞くのがおすすめです。
「なぜ辞退したのか」のような大きなくくりの質問だと、明確な回答を得にくくなります。社名を聞けなくても、同業種か異業種か、自社との規模の違いなどを聞くとよいでしょう。
・他社を選んだ理由
社名を教えてもらえた場合、他社のどのようなところが魅力的だったか聞いてみます。その内容を確認することで、自社の足りなかった部分がどこか具体的に見えてきます。
・当社と合わないと思ったところはどこか
本音で話してもらえることはなかなか少ないですが、今後の参考になる内容が効けるかもしれませんので参考程度に聞いてみるとよいでしょう。
必要に応じて話し合う
どうしても確保したい優秀な人材であれば、必要に応じて話し合い、内定辞退を再検討してもらうのも一つの方法です。
電話やメールなどではなく、直接顔を合わせて話す機会を設けて、できるだけこちらの誠意を伝えるようにします。それでも意志が変わらない場合は、しつこく引き止めずに相手の気持ちを尊重して引き下がりましょう。
まとめ
新卒採用は売り手市場であることから、内定辞退者の問題に悩む企業も多いでしょう。就職活動においては、複数の内定を取って最終的にどこにするか選ぶ方も多く、内定辞退を0にするのは非常に難しい問題です。
しかしながら選考から入社まできっちりとした施策を取っていれば、自社を選んでもらえる可能性がグンと上がります。入社に至るまでのコミュニケーションをおろそかにせず、内定者のモチベーションを維持させるような努力が企業側には求められるでしょう。
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