人的資本の情報開示とは?義務化の内容や開示が望ましい19項目を解説

日本でも、いよいよ人的資本の情報開示に向けて動き出さなければいけなくなりました。

2023年3月期決算より、対象企業においては「人的資本の情報開示」が義務化されます。まずは「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を開示する必要があります。しかし、今後、ますます開示しなければならない情報とともに対象企業が拡大すると予想されます。

そのため、企業は情報開示に向けて、準備を進めておきましょう。

しかし、

「何を開示しなければならないのか」
「どこから手をつけて良いのか」
「そもそも人的資本とは?」

と悩む経営陣や人事担当者も少なくないもの。

一体、どのような情報を開示する必要があり、何を準備すれば良いのでしょうか。

本記事では、人的資本の基本的なポイントを解説。人的資本の情報開示が必要な背景をふまえ、開示内容を説明します。

人的資本とは

人的資本とは「個人が持つ知識、技能、能力、資質など、付加価値を生み出す“資本”とみなしたもの」と定義されています。大まかに言えば、従業員が持つ知識や能力を「資本」とみなすことです。

人的資本経営とは

人的資本経営とは、「人材を資本とみなした上で行う経営」を指します。人的資本の価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値向上につなげる経営手法をいいます。

従来の経営では、人材を「コスト」「資源」として捉えることも少なくありませんでした。たとえば、新たに人材を雇用すると、採用コストが発生します。

一方、人的資本経営の場合、人材を「資本」とみなします。人材をコストとするのではなく、投資対象の資本として捉えることが人的資本経営の考え方です。新たに人材を雇用すると採用コストが発生しますが、人材によって売上が上がったり、新規事業が生まれたりします。その場合、単純にコストとは言い切れません。つまり、コストとして払っているのではなく、あくまでも「人的資本に投資している」という考え方になります。

・人的資本に“投資する”とは?

たとえば、建物や設備といった物的資本の場合、働きやすい建物に建て替えたり、最新の設備を取り入れたりするなど、先々の投資として資金を投じるのは一般的でしょう。人的資本に置き換えたとき、将来的な視点から人材投資を行うことです。たとえば、従業員が働きやすい環境を整えたり、育成できる体制を築いたりするなどといった内容が挙げられます。

さまざまな観点から、人材に投資することが人的資本経営となります。

人的資本の情報開示とは

人的資本の重要性が見直され、人的資本経営が推進される中で、企業側に情報開示を求める動きが起こっています。なぜなら、投資家やステークホルダーからすると、人的資本経営に取り組んでいる企業は成長する可能性が高い企業に映ります。「企業の将来性を判断する指標」として、人的資本の情報開示を強く求めてられています。

対外的なニーズだけでなく、自社や求職者にとっても、人的資本の情報開示は利点があります。

・投資家・ステークホルダー視点のメリット
人材にどのような投資や取り組みを行っているのかわかるため、企業の成長力や価値を測れる

・求職者視点のメリット
研修プログラムや福利厚生などの情報から、企業の実情を知れるので、採用のミスマッチをなくせる

・社内のメリット
数値化・データ化した人的資本の情報をもとに、人材戦略の立案や成果の振り返りに活用できる

つまり、さまざまな角度から、企業は財務情報などだけでなく、人材に関わる人的資本の情報開示は有効です。

投資家やアナリストが期待するポイント

単純に、人的資本の情報を公開すればメリットが享受できるわけではありません。きちんと戦略を持って、自社の取り組みを開示することによって意味を成します。

投資家やアナリストが期待するポイントは以下の通りです。

・サステナビリティ事項が企業の長期的な経営戦略とどのように結びついているかをストーリー性をもって開示することは重要
・KPIについては、定量的な指標を時系列で開示することが重要
・KPIの実績に対する評価と課題、それに対してどう取り組むのかといった開示は有用
・目標を修正した場合、その内容や理由を開示することは有用
・独自指標を数値化する場合、定義を明確にして開示することは重要
・女性活躍や多様性について、取り組む理由や目標数値の根拠に関する開示は有用
・人的資本投資について、従業員の満足度やウェルビーイングに関する開示は有用
・人権問題やサプライチェーンマネジメントについて、自社の取組みに関する開示は有用

引用:「経営・人的資本・多様性等」の開示例

つまり、中長期計画などをふまえて、きちんと筋の通った投資を行なっているかどうかが重要となります。全体のビジョンや方向性に沿いながら、根拠となる数値や取り組みを開示できるように情報を整理しましょう。

人的資本の情報開示、義務化が進む背景

2023年3月より、対象企業は人的資本の情報開示が義務化されるようになりました。つまり、任意ではなく、必ず開示しなければなりません。

情報開示が義務化される背景として、主に2つの理由があります。

ESG投資の拡大

ESG投資が拡大したことが人的資本の重要性が見直された一つの要素です。

<ESGとは>
3つの頭文字を取って作られた造語です。


・Environment(環境)
二酸化炭素(CO2)排出量の削減、排出物の処理、環境問題に対する取り組みなど
・Social(社会)
従業員や消費者、地域社会、サプライヤーなどのステークホルダーとの関係、人権、労働条件、コミュニティ貢献など
・Governance(ガバナンス、企業統治)

企業の透明性や責任、取締役会の独立性、報告義務など


ESGに関する情報は、企業の経営方針、リスク管理、投資判断などに影響を与えるため、投資家にとって重要な指標となっています。

企業の環境・社会・ガバナンスの要素に重点を置いた投資スタイルを「ESG投資」と言います。企業の財務面だけではなく、環境問題や社会問題に対する取り組みに着目し、投資の判断基準とします。

ESG投資のニーズが高まると、企業に対してESGに関する情報開示を行うように求められます。

ESGの中で、主に人的資本は「Social(社会)」に該当します。つまり、ESG投資と人的資本の情報開示は密接に関係しています。

欧米の流れ

海外では、日本よりも先に人的資本の情報開示が進められています。中でも欧州は、環境問題やサスティナビリティに対する関心が高く、米国よりも先にESG投資が注目されていました。その流れを受けて、人的資本の情報開示も進められました。米国では、2008年のリーマンショックを機に、同様の流れが進んでいます。

そして2020年11月、米国証券取引委員会(SEC SASB)が人的資本に関する情報開示を義務化。上場企業だけでなく、債券やデリバティブなどを発行する企業においても、人的資本の情報を開示しなければならなくなりました。

日本の人的資本に関する動き

欧米の動きに対し、日本では人的資本開示に対してどのような動きをしているのでしょうか。まずは2020年9月に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」より、人的資本経営が重要視されるようになりました。

「人材版伊藤レポート」は一橋大学CFO教育研究センター長である伊藤邦雄氏が作成した報告書であり、その中で「企業は経営戦略と人材戦略を連動させるべき」と結論づけられています。

さらに2022年には、より具体的な内容に迫った「人材版伊藤レポート2.0」が発表されました。

「人材版伊藤レポート2.0」とは

2022年5月13日に発表された「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本経営の実践方法が主軸となっています。「人材版伊藤レポート2.0」を通して、企業が人的資本経営を実現させるためのアイデアを把握できます。

参照:人材版伊藤レポート2.0

人的資本経営に対する全体の考え方を理解するとともに、具体的なアクションをつかめるので、人的資本の情報開示に向けた準備をする上では欠かせない報告書となっています。

いつから人的資本の情報開示の義務化が始まる?

では、人的資本の情報開示はいつから開始されるのでしょうか。

2022年8月、内閣官房から「人的資本可視化指針」が発表されました。その中で、人的資本において「情報開示が望ましい19項目」を挙げています。記載された項目を参考に、企業側に情報開示を促す動きが起こっています。

金融庁では、2023年より有価証券報告書に情報の記載を義務づける方針を発表しました。

<対象企業>

金融商品取引法第24条の「有価証券を発行している企業」が対象となり、大手企業を中心に4,000社ほどが該当します。

<情報開示の義務化が開始される時期>

2023年3月決算期より開始します。対象に該当した企業は、事業年度終了後3カ月以内に、有価証券報告書を毎年提出しなければなりません。提出する有価証券報告書の中に、人的資本の情報を記載します。

<記載すべき情報>

対象企業は、有価証券報告書の「従業員の状況」「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3つを記載する義務が生じます。

対象企業以外も、情報開示に向けた準備が必要

対象企業は、今年度から必ず情報開示を行うことになります。しかし、現在決められている記載内容だけでなく、今後はさらに多くの情報項目を求められると予想されます。また、現在の対象企業だけでなく、さらに多くの企業へと義務化が進められる見込みです。

つまり、今すぐに対応が必要ではない企業であっても、準備を進める必要があります。

人的資本の情報開示が望ましい19項目

ここからは、具体的に情報を開示すると良い内容をご紹介します。

2022年8月、内閣官房で人的資本に関する開示のガイドラインとなる「人的資本可視化指針」が公表されました。その中で、情報開示が望ましい内容は7分野19項目に分けられてます。それぞれの分野や内容をふまえ、社内の情報を開示していきましょう。

育成

育成分野では「リーダーシップ」「育成」「スキル・経験」の観点から、情報を開示することが推奨されています。たとえば、以下の項目が具体例として挙げられています。

<育成における開示事項例>
・研修時間
・研修費用
・研修参加率
・複数分野の研修受講率
・パフォーマンスやキャリア開発において、定期的にレビューを受けている社員の割合
・研修と人材開発の効果について
・人材確保や定着のために行っている取り組みの説明
・スキル向上などプログラムの種類や対象について

エンゲージメント

エンゲージメントとは、具体的に「従業員エンゲージメント」を指します。従業員が企業を理解し、信頼して「自発的に貢献したい」と考える度合いを指します。従業員が「どの程度のやりがいを感じながら働いているか」を示すエンゲージメントは、人的資本の活性化を測る指標となります。

具体的には、企業への理解度や共感度、自発的意欲、そのほかストレスや不満などが挙げられるでしょう。可視化しにくい要素ですが、アンケートなどを実施し、従業員エンゲージメント指標を測ることでわかるようになります。

従業員エンゲージメントを高めるためのポイント

流動性

人材の流動性とは、「採用」「維持」「サクセッション」です。採用活動にどれくらいのコストをかけているのか、従業員は自社に定着しているのか、将来の経営を支える後継者はいるのか……などを記載していくイメージです。

<流動性における開示事項例>
・離職率
・定着率
・新規雇用の総数・比率
・離職の総数
・採用・離職コスト
・人材確保・定着の取り組みの説明
・移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
・後継者有効率
・後継者カバー率
・後継者準備率
・求人ポジションの採用充足に必要な期間

ダイバーシティ

ダイバーシティ(Diversity)は、直訳すると多様性を意味します。企業は多様な人材を登用することによって、組織の生産性や競争力を高める一つとされています。

<ダイバーシティに関連する開示事項例>
・属性別の従業員・経営層の比率(女性管理職比率)
・男女間の給与の差 (男女間賃金格差)
・正社員・非正規社員等の福利厚生の差
・最高報酬額支給者が受け取る年間報酬額のシェアなど
・育児休業後の復職率・定着率
・男女別家族関連休業取得従業員比率(男性育児休業取得率)
・男女別・育児休業取得員従業数
・男女間の賃金格差を是正するために事業者が講じた措置

健康・安全

従業員が安心して働くためには、「精神的健康」「身体的健康」の双方が担保された労働環境でなくてはなりません。健康経営が推進され、従業員が心身ともに満たされた「ウェルビーイング」の状態を目指すことが重要です。「健康・安全」として、従業員を取り巻く環境に対しても情報開示が望まれています。

<健康・安全に関連する開示事項例>
・労働災害の発生件数・割合、死亡数等
・医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明
・安全衛生マネジメントシステム等の導入の有無、対象となる従業員に関する説明
・健康・安全関連取組等の説明
・(労働災害関連の)死亡率
・ニアミス発生率
・労働災害による損失時間
・(安全衛生に関する)研修を受講した従業員の割合
・業務上のインシデントが組織に与えた金銭的影響額
・労働関連の危険性(ハザード)に関する説明

労働慣行

「労働慣行」とは、「児童労働・強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」などが挙げられます。給与総額の男女比や、福利厚生の種類などを報告する項目です。労働におけるコンプライアンス違反の有無や、給与の公平性が評価される開示項目だといえるでしょう。

<労働慣行における開示事項例>
・団体労働協約の対象となる従業員の割合
・業務停止件数
・児童労働・強制労働に関する説明
結社の自由や団体交渉の権利等に関する説明
・懲戒処分の件数と種類
・サプライチェーンにおける社会的リスク等の説明

コンプライアンス・倫理

法令遵守を意味する「コンプライアンス」。昨今では法律を守っているかどうかに留まらず、社会的な規範や倫理観に基づいているかどうかが問われています。

<コンプライアンスに関連する開示事項例>
・人権レビュー等の対象となった事業(所)の総数・割合
・深刻な人権問題の件数
・差別事例の件数・対応措置
・コンプライアンスや人権等の研修を受けた従業員割合
・苦情の件数

人的資本の情報開示に向けて、社内コミュニケーションの見直しが重要

人的資本の情報開示を行うには、社内でスムーズなコミュニケーションを取れる体制づくりが不可欠です。

人的資本経営と社内コミュニケーションの関係

「育成」「従業員エンゲージメント」など、人的資本の情報開示が求められる項目はさまざまですが、企業の価値を向上させたり、リスクマネジメントを行ったりする上で、コミュニケーションDXは不可欠です。

たとえば、従業員の育成を行う際、社内のスキルやノウハウを伝授する必要があります。その場合、従業員同士のやり取りはもちろん、企業と従業員のコミュニケーションが重要です。

人的資本経営に向けて、社内のコミュニケーションを改善させるコツ

では、人的資本経営に向けて、具体的にどのようにしてコミュニケーションDXを推進していけば良いのでしょうか。ここからは、コミュニケーションDXを加速させるためのポイントを解説します。

マニュアルや研修を動画にする

従業員に業務を習得してもらうため、業務マニュアルや研修資料など、社内にはさまざまなコンテンツが存在します。。それらのコンテンツを誰が・いつ見ても理解できるよう、動画にまとめる施策が有効です。

たとえば、新しい人材が入ってきた際、業務の手順について説明しなければなりません。その際、他のメンバーや上司が口頭で解説したり、新しく加入したメンバーが膨大なマニュアルを読み込まなければならなかったりするなど、社内に負荷が発生します。

そこで、動画のマニュアルや研修コンテンツを制作しておけば、現場の負担を軽減できます。
動画化しておけば、視聴する従業員はスムーズに理解しやすくなります。繰り返し視聴できるため、疑問が生まれたタイミングで改めて見返せるのもメリットです。

動画を通してコミュニケーションDXを図ると、たとえば育成分野の開示例にある「研修受講率」を高められます。

配信基盤を構築する

企業側は、必要なコンテンツを配信する基盤を構築することが大切です。なぜなら、従業員が知りたい情報に対して、スムーズにアクセスできるためです。

従業員が知っておくべき知識やノウハウは膨大にあります。一度に全ての情報を覚えるのは不可能です。従業員は自身が必要なタイミングで、必要な情報にアクセスします。しかし、膨大な情報の中から、必要なコンテンツを探しあてるのは困難です。

そこで、情報をきちんと整理し、各従業員にとって必要なコンテンツをまとめて配信する状態を構築することが不可欠になります。

配信コンテンツの管理や分析する

オンライン上のコミュニケーションは、企業側が従業員の状況を管理しにくいのがデメリットの一つです。たとえば、研修動画を配信しただけでは、きちんと従業員が視聴したかどうか可視化しにくいもの。また、コンテンツの質を高めるためにも、配信分析を行うことが肝心です。

配信したコンテンツが従業員に届いているのかを可視化できると、人的資本の開示で必要な情報の集計も簡単に行えます。

動画制作から配信分析まで、「Video BRAIN」ならワンストップで実現可能

動画制作から配信分析まで行うなら、ビジネス動画編集クラウドの「Video BRAIN」がおすすめです。

Video BRAINは、誰でも簡単に動画が制作できるツールです。動画制作から配信、コンテンツの管理、従業員の閲覧状況やToDoの進捗管理まで、一貫して行えます。


<Video BRAINの特長>

(1)パワポ感覚の操作性。短時間で簡単に動画を制作

3,500以上の動画テンプレートに加え、商用フリー素材を多数搭載。
画像や動画、イラストなど、テキストや素材を入れ込むだけで動画が完成します。

(2)社内のナレッジを一元管理。必要な情報にもスムーズにアクセス可能

Video BRAINに搭載されたポータル機能を使えば、社内のナレッジを一カ所に集約可能。
優れた検索機能により、必要な情報にアクセスするのもスムーズです。

(3)豊富な共有方法を搭載。視聴分析で社内の活用状況を可視化

作成した内容を共有する際には、URLリンクを発行できるほか、学習期限を設定してタスク化することも可能。目的に応じて最適な共有方法を選択できるので、社内に情報を伝達したい場面から、研修教材を配信したい場面でも役立ちます。


動画はもちろん、パワーポイントやエクセル資料、PDFデータなどのコンテンツにも対応。

Video BRAINを活用し、人的資本に必要な情報を動画でスムーズに社内へ届けましょう。

まとめ

人的資本の情報開示が義務化される背景には、持続的に企業価値を向上させたい点が挙げられます。義務として開示しなければならない情報はもちろん、自社の魅力を高めるために必要な情報もきちんとおさえるようにしましょう。


 

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