自粛中、動画の楽しみ方に変化はあったのか?

2020年の春に、突然世界を襲った新型コロナウイルス感染症。緊急事態宣言とともに、日本中が”自粛”になりました。その自粛下でも、人は営みを続けていますから、室内では活発に活動することとなります。リモートワークも導入され、在宅ワークにチャレンジする人も。

「自粛や在宅ワークで可処分所得が増えた現在、動画がより見られているのではないか?動画との付き合い方が大きく変わったのではないか?」

そんな仮説を元に、リサーチを行いました。
自粛中、人は動画をどう見たのか。
結論は、確かに動画の視聴に変化があったようです。

では、どのような変化がみてとれ、一体、日本人の動画視聴に対する意識の違いは、どのような違いが起きているのでしょうか?

自粛中、動画を使う時間は増えたか?

アンケートは、2020年7月、クラウドソーシングプラットフォームの『ランサーズ』にておこないました。さまざまなアンケートが取れる機能があり、50万人以上のユーザーがいるため、動画にまつわるアンケートを取るのに最適だとの判断からです。

まず、こちらのデータによりますと、「視聴時間は増えましたか?」という質問に対して、「増えた」と答えたグリーンの部分が多いことがわかります。とくに30代40代の会社員に多くなっています。この層は、会社でも売上を立てたり、管理職だったりと、仕事の最前線にいるビジネスパーソンだと考えられます。

在宅勤務にあたって、長時間自宅のデスクで働くことに慣れていないため、緊張感を持つ、あるいは集中を保ったり、また気がそれたときに気持ちを戻すためだったり、休憩がてらだったりに、動画を見ているという実情が浮かび上がってきます。

反対に、「減った」人もいます。主に主婦層で、家族が在宅になってお世話が増え、動画を楽しむどころではない…というコロナと暮らす日常が浮かび上がってきます。家族が在宅になると、家庭を預かる方の負担は大きく増大します。
大人は自分の家事は自分でするとしても、お子さんは、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高校と、すべて休校で、自宅にこもりきりです。そうなると、家事の負担はとても大きくなり、スマホやPCを触っている時間もないほど家事があったり、子供の手前あまりネットに夢中という姿を見せたくなかったりなどの心理が働いているものとみられます。

しかし全体としては、圧倒的に「視聴時間が増えた」という人が多数であることが分かります。

動画を見るプラットフォームは?

 
では、視聴時間だけでなく、どのプラットフォームで動画を見るか、にも変化はあったのでしょうか?

プラットフォームの変化という項目では、濃い青のYouTube、オレンジのAmazonプライムビデオが伸びているのがわかります。やはり動画視聴の第一選択として、YouTubeはトップランナーであり、「動画をみたいし、YouTubeで何か検索してみるか」というトップ・オブ・マインド(第一想起)になっていることがみてとれるのです。

YouTubeが20代から60代のすべての世代において、大きくシェアをとっています。YouTubeには関連動画というおすすめ動画機能がありますから、そこからレコメンドされて長時間サイト内に滞在し、結果として多くの人の頭の中に、「動画はYouTube」という観念を植え付けることに成功しているのです。

これはマーケティングでも「一番手の法則」が作用しています。一番手の法則とは、『売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則』(アル・ライズ、ジャック・トラウト 著)で出てくる22の法則のひとつで、「一番最初であることは、ベターであることに勝る」というものです。

何事も先頭を切り、それによって第一想起につなげ、トップランナーとしてジャンルの代名詞になれます。たとえば、昔はコピーを頼むのにも「ゼロックスしといて」という中年社員がいたものだというビジネスパーソンの笑い話がありますが、ゼロックスはコピー機(複写機)のシェアを取っていたがゆえに、カテゴリすべての代名詞となっているのです。

どのデバイスで見られているのか

一方で、使用するデバイスはどうなっているでしょうか。

20代・30代では青のスマートフォンと緑のパソコンのバランスが拮抗しています。それ以上の世代になるとパソコンの割合が増えてくることがわかります。
特徴的なのが30代のスマートフォンからの視聴率の高さです。自粛下という特殊な状況において、スマホで動画視聴というのがどのような生活様式をしめしているのか、このデータからはみえてきませんが、30代の会社員は属性的に子育て世代ど真ん中でもあるため、子供の世話をしながらスマートフォンで動画、もしくは子供にスマートフォンを手渡しキッズ向け動画や教育系動画を見せる…というイメージが湧いてきます。

在宅勤務をさぼってお布団の中でスマホで動画を見ているという笑えないケースも考えられますが、それがここまでの割合の多さを示すとは考えづらいため、おそらく仕事と子育ての両立というライフスタイル上の課題に対し、スマホが生活に割り込んできて活躍しているのではないでしょうか。

現に、今のライフスタイルを成立させようと思ったらスマホが欠かせません。どれだけ多忙であっても、通勤(があった頃)やちょっとした休憩時間に、アプリからスーパーに発注できますし、家事代行さんだってスマホで簡単に呼び出せます。とくに、子育て世代は買い物も多く、消費が非常に活発ですので、生活に関連したスマホのアプリもとてもたくさんあります。

よって、生活を回していく上で、スマホはとても大切なインフラやプラットフォームと接続できるデバイスとして重要なのです。そのひとつに、動画が位置づけられているようです。

どのようなタイミングで見られているのか

では、実際の視聴シーンについて分析していきます。やはり仕事や勉強中のBGMにしているケースが多く、同時にオレンジ色、やることがないときに動画視聴をするというケースが目立ちます。また、グリーンの寝る前に動画をみながら、というのも極めて現代的なライフスタイルだと考えられます。

正確には、寝る前に動画をみると刺激が強く、人工光はがんや肥満、うつ病などを引き起こすという論文があります。1996年に発表されたコネティカット大学のリチャード・スティーブンス教授の研究です。その20年後、つまり2015年には、同氏は同じことを繰り返して発表しています。

基本的に、寝る前はスマホを寝室に持ち込まず、カーテンを閉めて電気もちゃんと消して真っ暗に。刺激のない状態にしないと、脳が興奮状態になりすぎてストレスを受け続け、休息がとれないのです。それはたいへん良くない状態だと考えられます。日中のストレスが多いからこそ、夜はきちんと眠る、眠る環境を整えることが大事だと研究は示しています。

参考:https://today.uconn.edu/2015/03/lighting-adjustments-necessary-for-better-health-researchers-say/

寝る前のスマホが体に悪いというのはなんとなく体験でも想像がつきますよね。それでも、グリーンの「寝る前」と答える人は一部いて、人工光やきつい刺激を受け続けることに無自覚な方も一部にはいるということがデータからわかります。少し心配なデータであることは事実です。

在宅勤務中に動画を見ることはあるのか?

さて、在宅勤務中に動画を流すか、という質問についてです。息抜きやBGMなど、決してサボっているわけではなく、むしろ生産性向上のために動画は存在する側面はあります。しかし、20代~50代の現役ビジネスパーソンに関しては、「まったくない」が多くを占めます。ビジネスパーソンのうちでも若い層(20代30代)は、動画に親しみながら、山積みの仕事を解決していくという働き方がみえてきます。
さすがに会社のオフィスで動画を流しながら勤務するのははばかられるが、自宅で自分のベストな作業環境を作るとなると動画がお供になる、ということでしょうか。

「若年層の中には仕事中に動画を視聴する人も一定層存在する」ということを頭に入れておくと、動画コンテンツ配給側にもさまざまな打ち手が生まれるかもしれません。

まとめ

コロナの前後で、動画との関わり方に変化が生まれたことがわかりました。それまでも5Gが来るため動画のブームはあったのですが、キャズム(溝)を超えて動画の利用者が一気に増えた形です。動画は生活に入り込むととても情報量が多く、楽しく、快適で、「ながら見」にも最適で、QOL(生活の質)を大きく向上させてくれるメディアです。

企業活動としても、この訴求力の高い動画を活用するニーズは今後ますます増えていくことでしょう。


 

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