近年、動画マーケティング市場が急速に拡大し、注目を集めています。電通など電通グループ4社が2020年3月に発表した「2019年 日本の広告費」では、2018年に約2,027億円(全体の14.0%)だったビデオ(動画)広告の媒体費は、2019年には前年比157.1の3,184億円(19.1%)まで拡大しました。2020年には同113.0%の3,597億円になると予測されていて、成長が見込まれています。
参照:2019年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析
目次
市場拡大の理由
なぜ動画マーケティング市場は急拡大しているのでしょうか。主な理由は3つあると考えられます。
圧倒的な情報量による訴求力
ひとつは、動画の持つ圧倒的な情報量とその訴求力です。愛知大学で発表された論文によると、動画は静止画の約30倍、テキストの100万倍以上の情報量を持っているそうです。
また、アメリカの心理学者が提言した「メラビアンの法則」によれば、人が印象を判断する際、重視する情報の内訳は、視覚55%、聴覚38%、言語7%だそうです。動画は視覚・聴覚・言語の3要素で構成されています。本や雑誌を読むよりも、ラジオで会話を聞くよりも、動画は人の判断に大きな影響を与える可能性が極めて高いといえそうです。
通信システムの進化
インターネットなどの通信インフラが整備されてきたことも挙げられます。動画は静止画像に比べてデータが大きく、3G以前の回線環境では、通信能力に限界がありました。しかし、4Gになり視聴時の快適さは格段に向上しています。
そして、5Gの利用が本格化すると、今よりもはるかに大容量・高品質な動画を、高速でアップロード・ダウンロードができるようになるため、ますます動画マーケティング市場は拡大することになるでしょう。
SNS利用者の増加
また、YouTubeなどの動画配信や、Instagram、TwitterなどのSNSを利用する人たちが急増していることも、動画マーケティング市場拡大を後押ししています。
インプレス総合研究所がまとめた「動画配信ビジネス調査報告書2019」によると、ユーザーがよく視聴する映像・動画の種類で、YouTubeなどの「動画共有サービス」は37.6%、「SNS上の動画」は15.4%となっています。
特にユーザー数が突出しているのがYouTubeです。報告書では「動画共有サービス」「無料の動画配信サービス」「SNSの動画」をよく視聴すると回答したユーザーの97.0%が、YouTubeを利用しているという結果が出ています。次いで、2位がTwitter、3位にLINEがきており、いずれもSNSが上位を占めています。
現在主流の動画広告の種類
現在の動画マーケティング市場で、主流の動画広告は2つあるとされています。
YouTubeなどの動画媒体におけるインストリーム型広告
YouTubeなどで活用されているのがインストリーム型広告です。視聴者が見たい動画再生の前後に自動的に表示される動画広告のことで、テレビ放送のCMに似ていますが、再生から5秒ほど経過すると視聴するかしないかを選択できる(スキップできる)ものと、最後まで視聴しないといけないものがあります。スキップできるものを「スキッパブル広告」と呼び、スキップできないものを「ノンスキッパブル広告」と呼びます。
TwitterなどのSNS媒体におけるインリード広告
インストリーム型とは反対に、動画外に掲載される「アウトストリーム型」と呼ばれる動画広告が普及しているのがTwitterなどのSNS媒体です。中でも、インリード広告はコンテンツとコンテンツの間に表示され形式の広告で、ユーザーがWebをスクロールした際に表示された瞬間に動画の再生がはじまる仕組みになっています。現在、SNS媒体における動画広告の成長を牽引しています。
動画マーケティングの今後の動向は?
冒頭で述べたように、動画広告は市場が急拡大しており、激しい企業間競争が繰り広げられています。そこで今後、主流になりそうな動画広告についていくつかご紹介します。
「縦型動画広告」
サイバーエージェントの市場調査では、デバイス別に見ると、2020年の動画広告市場の90%にあたる2,973億円を、スマートフォンの動画広告が占めるとしています。これは2018年のおよそ2倍です。その規模は今後も拡大していき、2023年には4,709億円(全体の93.0%)になると予測しています。
参照:サイバーエージェント、2019年国内動画広告の市場調査
なお、スマートフォンは通常、縦で使用するため、縦型動画広告はさらに一般化すると考えられます。これまでの動画広告は、テレビや映画のような横型が一般的でしたが、縦型動画広告だとわざわざデバイスを横向きに持ち変える必要がなく、商品メッセージを大きく表示できるメリットがあります。
注目を集める「ライブ配信」
ライブ配信動画とは、テレビやラジオの生放送のように、リアルタイムで配信される動画のことです。
国内では、2007年12月に始まった「ニコニコ生放送」が、インターネットでのライブ配信を広く普及させた存在でしょう。ユーザーはリアルタイムで動画を見ながらコメントすることができて、画面上に文字が字幕のように流れます。
そして、2011年4月にはYouTubeが、ライブストリーミング機能「YouTubeLive」をリリースしました。当初は限定ユーザーのみで利用が可能でしたが、2013年にすべてのユーザーに開放されました。特徴は何といっても無料で配信・視聴が可能なことでしょう。アカウント認証が配信条件なので、コンテンツの質も保たれています。
現在、ライブ配信ができるサービスは増えており、Facebook、Twitter、LINE、Instagramなど多くのユーザーが利用するSNSでのライブ配信のほか、「17 Live」や「SHOWROOM」の配信サービスも人気を博しています。
ライブ配信の特徴は、その相互性にあります。単に映像がリアルタイムで配信されるだけでなく、ユーザーのコメントもリアルタイムで伝えられるため、配信者はそのコメントに応じて内容を臨機応変に変えられます。配信者とユーザーがコミュニケーションしながら、コンテンツを作り上げていくことで、より満足度を高めるようです。日本でも今後の拡大が予想されています。
新登場「インタラクティブ動画広告」
ライブ配信と相互性で共通点を持つ「インタラクティブ動画広告」が新たに登場しています。インタラクティブ動画とは、さまざまな仕掛けが組み込まれた体験型の動画のこと。例えば、動画内にさまざまな選択肢を設けることで、商品購入などへと誘導できるようになりました。
従来の動画では再生中に動画からインターネットのリンク先に飛ぶことはできませんでした。そのため、動画を見たユーザーが内容に興味を持っても、動画の再生中や終了後に自ら検索しなければならず、必要な情報までなかなかたどりつけずに、商品購入に至らないこともありました。
インタラクティブ動画広告は、こうしたユーザーの手間を省き、購入サイトやクーポンなどに誘導します。海外ではすでに活用が始まっており、今後の日本国内の動向に注目が集まっています。
動画マーケティングの課題点
動画マーケティング市場は急拡大していますが、今後、さらに普及する上で、課題も残されています。
動画制作のノウハウやスキル不足
動画マーケティングの経験がある企業は非常に少なく、ノウハウやスキルが足りません。これまでテキストや静止画でマーケティングを積極的に実施してきた企業でも「どう見せればいいのか分からない」「何を動画にすればいいのか分からない」といった悩みを持っているのではないでしょうか。そもそも取材、撮影、編集といった動画制作に必要な技術や知見を持つ人材が限られるからです。
高い外注コスト
ノウハウやスキル不足を補うために、動画制作プロダクションに外注するという選択肢もあります。テレビや映画といった既存メディアでの実績豊富な企業に依頼すれば、高品質な動画を制作してくれるでしょう。
しかし、企業にとって、費用対効果の観点から、外注は合理的な選択にならない可能性が高いのではないでしょうか。
まとめ
YouTubeやTwitterのようなSNSのユーザー数が拡大し、動画広告の有用性が注目されている現在、各企業が動画による商品訴求合戦にしのぎを削っています。「縦型動画広告」や「インタラクティブ広告」など新たな手法も取り入れつつ、このトレンドは今後も強まっていくことが予測されます。
ただ、企業が自ら動画を制作するにはノウハウやスキル、人材を確保する必要がありますし、プロに外注するにしても、高いコストがかかります。それでは、自社で簡単にクオリティーの高い動画を、低コストで作れないかというと、そういうわけでもありません。素材を用意するだけでAIが最適な動画作成をするサービスもあります。動画制作の経験のない企業にとっては、メリットも多いので、一度検討してみてはいかがでしょうか。
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